14.グローバルな海洋マイクロプラスチック汚染問題

今や、プラスチックによる海洋汚染は地球規模で広がっており、とくに紫外線などにより破壊されて径が5mm以下になったマイクロプラスチックは北極や南極でも観測されています。

2016年5月にはG7伊勢志摩サミットの首脳宣言において、プラスチックなどの海洋ごみに対処するため、3R(reduce 削減、reuse 再利用、recycle 再生)対策が再確認され、2017年7月のハンブルグサミットでは、G7による取組を基礎に、発生抑制、持続可能な廃棄物管理の構築、調査等の取組、イニシアチブ「海洋ごみに対するG20行動計画」が立ち上げられました。さらに、2017年12月に開催された国連環境総会(UNEA3)で、海洋プラスチックごみ及びマイクロプラスチックに関する問題が提起され、海洋プラスチックごみ及びマイクロプラスチックに対処するための障害及びオプションを精査するための専門家が招集され、会合が始まっています。

何と、1995年に“プラスチックの海”が刊行されてわずか20年後に、これほどの大問題になるとは、誰も予測できなかったことでしょう。放棄もしくは投棄された漁具の多くがプラスチックでできたものであり、海洋生物への危機を訴えた矢先のことです。海の塩には、浄化作用があるとかで、誰もが地球に残された最後のよりどころである海の底しれない力を信じてきました。

グローバルな視点で議論されるようになった背景には、膨大な量のプラスチックが、ごみとして美しい海岸に漂着してくるという物理的な問題ばかりではなく、マイクロプラスチックの生成過程や海洋生物に及ぼす影響、最終的には我々の健康への影響が不明なため、ヒトが不安にかられていることがあるのです。

 海で発生する海洋プラスチックは、陸上の量と比較すれば多くはないかもしれませんが、自然界に放出されたプラスチックごみは、容易には分解されず、多くが残り続けます。プラスチックごみの多くは、紫外線等の影響を受けるなどして、もろくなり、小さなプラスチックの粒子(マイクロプラスチック)となり、陸地では、ごみ集積場や処理場、海では、海水に漂い、多くが海底に蓄積しています。海洋に存在するマイクロプラスチックは、プラスチックの劣化の他、洗顔料や歯磨き粉に広く使われマイクロビーズや、プラスチックの原料として使用されるレジンペレットが船で輸送される過程で、袋の破損によって流出される、などの原因によることもわかっています。このようなマイクロプラスチックは、海で生じる流れにより海面に集められ、巨大な集積箇所が形成されます(ごみベルト)。1997年に北太平洋で発見された北太平洋のごみベルトにはプランクトンの10倍のプラスチックが存在していたそうです。イギリスのスーパーで売られている貝のすべてからマイクロプラスチックが検出され、東京湾の貝類からも見つかっています。
プラスチックには多くの種類があり、用途によりそれを構成している化学物質の組成、割合が異なっています。生物への影響を考える上では、プラスチックそのものより、プラスチックを柔らかくしたり、熱に強くするために添加されている化学物質(可塑剤)が問題です。様々なプラスチックに添加されているフタル酸エステル、ポリスチレンやポリ塩化ビニルに添加されているノニルフェノール、ポリカーボネートの原料のビスフェノールA(BPA)などには内分泌撹乱作用が確認されており、生物の体内に取り込まれると、体内のホルモンバランスを崩し、様々な影響が表れる可能性があることはすでに述べたとおりです。BPAがポリカーボネートから海水中に溶け出しやすく、ラジカルの存在下でビスフェノールのキノン体に変化しやすいこともすでに述べました。
地球温暖化で海水温が上昇していることも、プラスチックに添加されている内分泌撹乱化学物質の海水中への溶出を加速しているものと思われます。このような化学物質の海中への溶出,変性は海洋生物への影響を考える上でとても重要です。海洋生物を守ることは、とりもなおさず我々の健康維持、末永い繁栄につながることなのです。プランクトンが有害化学物質で汚染されると、海洋生物の生命を脅かすばかりでなく、食物連鎖により濃縮され、我々人間に戻ってくるのです。
さらに、もう一つの重要な問題は、マイクロプラスチックが海洋を漂流する間に、有害化学物質がプラスチックに吸着し、海洋生態系に取り込まれることです。海底に沈んでいるプラスチックには、毒性が高いため、現在、使用が禁止されている物質も吸着されており、深海魚の方が影響が大きいと考えている研究者もいます。プラスチックは自然界の中で、半永久的に完全に分解されることなく存在し続けます。すぐにでも無用な生産を止めるなり、何らかの対策を取る必要があります。
大量のプラスチックが日常的に利用される暮らしが当たり前になっている日本は、1人当たりの容器包装等プラスチックの発生量が世界で2番目に多く、世界の海洋プラスチックごみ問題の一因を作りだしているそうです。プラスチックの製造ならびに使用の削減は、我が国に課せられた喫緊の課題です。