8.ビスフェノールA(BPA)の環境中に溶け出しやすい条件とは?

ヒトの血清、販売されているプラスチック入りの牛血液、市販の食品からBPAが検出されたという事実は、BPAを含むプラスチックからBPAが環境中に溶け出しやすいことを示すものでした。

ここで、BPAの海水中への溶出や安全性に関する研究に拍車がかかった一冊の本があります。1995年に刊行された「プラスチックの海」(海洋工学研究所出版部)です。海の研究に携わっており、誰よりも海の健康状態を知っている、11名の現役執筆者の生の声を集めたものです。私がBPAの研究を始め、この本の存在を知ったのは、公立の図書館の子どものコーナーでした。確か夏休みの読書感想文のための本に推薦されていたと思います。これは由々しき事態だと直感し、早速、編集に携わった佐尾和子さんと連絡を取りました。彼女は、「人間が発明し、使用してきたプラスチックが海に廃棄され、海洋動物を脅かしている。人間はプラスチックの海に生きているが、海の動物も例外ではない。海洋汚染に関する研究費を増やし、早急に法的対策を取る必要がある」と切実な感想を返して下さいました。この本からは、美しい地球の荒廃を少しでも食い止めようとする彼女の切実な意気込みが伝わってきます。その後、彼女は、自然の雄大さ、保護の大切さを訴え、毎年素晴らしい写真入りのカレンダーを発行しています。彼女との交流は今でも続いています。

「プラスチックの海」の見返しの次に出てくる扉の写真は、漁網が絡まったオットセイの写真です。つい最近、夏休みで私の家に遊びに来ていた小学1年生の女の子が、「早く誰か網を取ってあげればいいのにね]と早くも関心を示していました。

私がBPAに関心を寄せた20世紀末は、実験器材としてポリカーボネート(PC)プラスチックの試験管、シリンダー、フラスコが販売されていた時期であったため、BPA の溶出実験に好環境であったのです。BPAがどのような温度で水環境中に溶出されるのかを知るために、蒸留水、河川水、海水をPCプラスチック(BPAのかたまり)の試験管に入れ、環境温度(20℃と37℃)、pH(6.5-8.0)を変えて溶出実験を行いました1)。3種類のサンプルで、温度が高いほど、pHが高いほど(アルカリ度が高い)溶出量は増加しました。PC試験管から3種の水へのBPAの溶出量は、海水>河川水>蒸留水の順に高く、37℃に46日放置した場合の海水へのBPA溶出量は、同条件下に放置した蒸留水の約10倍でした。水に含まれる塩の種類によってもBPAの溶出量は異なり、カリウム塩よりナトリウム塩を含んだ水へ多く溶出することも明らかになりました。

また、PCプラスチックから羊の血漿中へのBPAの溶出量は、海水への溶出量より3倍も多いこと、水にアミノ酸を添加すると、添加なしの場合に比べ溶出量が増えることから、BPAの溶出量は、水環境に含まれる成分により左右されることが推測されました2)。

地球温暖化によるエルニーニョ現象が生じると、赤道海域で海水温の上昇が見られます。この海域にプラスチックが存在すると、BPAなどプラスチック関連物質の溶け出す速度が高まるのではと心配になります。

引用文献

1)Sajiki, J., Yonekubo, J, Leaching of bisphenol A (BPA) to seawater from polycarbonate plastic (PCP) , Environmental Science, 9: (2-3) 223(2002)

2)Sajiki J., Yonekubo J. 2004. Leaching of bisphenol A (BPA) from polycaobonate plastic to water containing amino acids and its degradation by radical oxygen species. Chemosphere, 55 (6):861-867 (2004)