4.ビスフェノールAとは?

ビスフェノールA(以下BPAと略)の原料は石油です。熱に強く、軽くて硬い、安価であることから、今でも様々なプラスチックに広く使用されている化学物質です。プラスチックの中でもポリカーボネート(PC)は、BPAをつなげて作られた、まさにBPAのかたまりなのです。PCは透明度や硬度が高く、熱や衝撃に強いという特性から、壊れやすいガラスや陶器の代わりとして哺乳瓶や食器などに使用されてきました。食品缶の内面剤に用いられているエポキシ樹脂もBPAが原材料であり、塩化ビニール樹脂にはBPAが可塑剤(柔らかくする目的で使用される物質)や酸化防止剤として使用されています。

そのBPAに内分泌撹乱作用が疑われたのは、アメリカ、スタンフォード大学の実験室での出来事でした。その当時は実験器具であるフラスコやメスシリンダーにガラスの代用としてPCが使用されていたのです(当時は、日本でもプラスチックの実験器具が用いられていました)。実験室で、酵母細胞に女性ホルモンが結びつく箇所(レセプター)があるのではないかという研究をしていました。酵母細胞に女性ホルモンを加えると細胞は増殖するのですが、ある日、女性ホルモンを加えない場合でも細胞が増えていたのです。それからというもの、細胞を増殖させた犯人探しが始まり、実験に使用していたPC製のフラスコが疑われたのです。PC製のフラスコに加熱滅菌処理した水に細胞を加えた場合にも女性ホルモンを加えた時と同様、細胞が増えたというのです。フラスコから溶け出した物質を取り出し調べたところ、犯人はフラスコから溶け出したBPAであることが判明し、BPAには女性ホルモン様の働きがあることが確認されたのです。女性ホルモンとしてのBPAの効力は天然ホルモンの1/2000にすぎないが、ごく低い濃度(ナノグラムの世界)でも威力を発するようです。このような事件は、やはりアメリカの他の研究室でも生じており、その犯人は、やはりプラスチックの安定剤として使用されていたノニフェノールでした(”奪われし未来”に記載されています)。

私が研究を始めた当時、PCは哺乳瓶や学校給食の食器、飲料や食品の缶にも使用されており、ミルクや食材に溶け出すBPAの量や生体への影響が懸念されていました。ツナ缶からBPAが内容物に移行していたとか、缶飲料の液体中にBPAが検出されたなどのデータが相次いで報告されました。私がかかわった環境中におけるBPAの濃度を測定した結果については、次項で述べることにします。

哺乳類の体内では、BPAは分解されないが、肝臓でグルクロン酸に包まれて尿中や胆汁中に排泄されるため、影響は低いと考えられています。そのため、現在でも生産、使用が続けられています。

一般的に、有害化学物質の生体影響は、ラットやマウスを用いた実験結果から蓋然性(がいぜんせい:ヒトでの可能性)があるか否かを判定するのですが、環境中に存在する低濃度のBPAを投与した実験動物では、周産期における様々な影響が報告されており、今後も本物質の安全性については再検討していく必要があると思われます。私が関わった妊娠マウスのBPA投与実験では、仔マウスの脳に影響を認めています。この結果については、改めて別項に記載したいと思います。

BPAに関する数多くの実験動物結果が、杞憂に終わればよいがと日々願っています。