1.はじめに

先日、テレビ朝日の某番組のアシスタントプロデューサーの方から番組への出演依頼のメールを受け取りました。現在、グローバルな問題である海洋のマイクロプラスチック汚染についてのスペシャルプログラムを企画しており、マイクロプラスチックの生態影響に関する専門家としてのコメントを、という趣旨でした。ゴールデンアワーに放映される有名な番組なので、これまでテレビ出演など縁のない私にとっては、晴天の霹靂でした。

もちろん、テレビで写されること自体自信がない上、これまでのプラスチック関連物質に関する私の研究とは少し乖離があることなどをお伝えして、今回は出演しないことになりました。ほっと胸をなでおろした次第です。

海洋のマイクロプラスチック汚染を人を含めた生態影響と結び付けて、一口でコメントするのはとてもハードルが高いのです。

これを機会に、30年以上行ってきた私の研究(もちろん支えていただいた共同研究者、支援者のサポートが大きかったのですが)結果を無駄にしないために、先人たちの教えを交えて、話をしたいと思います。それが、これから未来を切り開いてくれる若者たちへのメッセージになればと思い、筆を取ることにしました。

ブログなので、思いついた時に無理せずに書き進めていきます。気長にお付き合いください。

どうして、二ッティングを主体に発信してきたエヴァ・ナチュラルのブログを使ってマイクロプラスチックの海洋汚染問題?と誰もが不思議な気持ちを抱かれることでしょう。

でも、木に竹を接ぐようなことではないのです。私の余生をマインドフルネス二ッティングの普及活動に向けた背景には、30年もの化学物質の生態影響についての研究があるからなのです。

2.プラスチック関連物質の研究に至るまで

1950-70年代の我が国は高度経済成長のまっただ中にあり、企業の有害化学物質の垂れ流しによる水質汚濁やコンビナートから発生した亜硫酸ガスの大気汚染による公害が大きな問題になっていました。熊本県水俣市で発生したメチル水銀化合物による水俣病、新潟県阿賀野川流域で発生したメチル水銀化合物による第二水俣病、富山県神通川流域で発生したカドミウム(Cd)によるイタイイタイ病、三重県四日市市で発生した硫黄酸化物による四日市ぜんそくは、我が国で生じた4大公害として忘れてはならない悲劇です。

大学卒業後、就職先に選んだ研究所では、40数名の仲間が食品や飲料水の安全性に関する微生物検査や化学検査などに携わっていました。同期の新人仲間5-6人、若手の先輩を入れると十数人は、定時に仕事が終わると、誰が声をかけるともなく会議室に集まり、環境汚染の現状や対策について議論を闘わす毎日でした。その頃、熟読したアメリカのレイチェル・カーソン女史著のサイレントスプリング(日本語訳:沈黙の春 1974年出版)に大きな衝撃を受けました。この本のアメリカでの初版は1962年ですから、日本で訳本が出される12年も前に書かれた著書なのです。

「その頃のアメリカでは、虫や雑草やネズミなどを退治するために大量の毒性の強い化学物質が自然にばらまかれた時期であった。なかでも殺虫剤の代表であるDDTに強力な害虫退治効果があることを発見したスイス人は、その功績によりノーベル賞を授与されている。ところが、一方、市民たちは、これまで春になると鳥が帰ってきて、素晴らしい季節を謳歌していたが、毎年、DDTがまかれると、町からコマドリやムクドリが姿を消し、川ではサケの数が減ったことに驚き、鳥たちが死んだことを子どもたちに説明するのに骨を折ったそうだ。DDTなどの強力な殺虫剤には、発癌作用があり、このまま手をこまねいて、何の対策も取らなければ、行きつく先は、禍、破滅である」と殺虫剤に有害化学物質を使用する危険性を説きました。すなわち、有害生物を撲滅する行為は、自然界における生物多様性を否定し、バランスを崩す結果につながると。

カーソン女史が57歳という短い生涯を終えた原因が癌であったとは何と皮肉なことでしょう。

この1冊が私の化学物質の生態影響研究への道筋をつけたように思います。この本の信憑性を確認したいと強く思うようになりました。そして、新研究室の誕生に伴い化学物質の毒性に関する研究がスタートしたのです。

最初に手掛けた化学物質がプラスチックの可塑剤(プラスチックを柔らかくする物質)のフタル酸エステルでした。マウスの腹部に注射して化学物質の影響を臓器の重量で観察するのですが、顕著に表れた結果は、雄の生殖器である精巣の委縮でした1)。雌の生殖器には影響はなく、雄の生殖器が化学物質には脆弱であるという印象を持ちました。

次に手がけた物質は、4大公害の原因物質の一つであるCdでした。Cdは重金属の一つです。雄ラットの皮下に1mgの塩化カドミウム(CdCl2)を1回注射するだけで、精巣に出血性の炎症が生じ、永久的に機能不能になるという現象がすでに明らかになっていました。その毒性発症のメカニズムとして精巣内における過酸化脂質(癌を始め多くの病気の原因と考えられています)の関与を証明しました2)。この研究で千葉大学薬学部より博士学位を取得しました。

今でも私の脳裏に焼き付いて忘れ去ることのできない事件が、四大公害とほぼ同時期に生じました。1968年の北九州で発生したカネミ油症事件、1979年には台湾油症事件が発生し、原因物質としてポリ塩化ビフェニール(PCB)が推定されたのです。後に世界中を震撼させたダイオキシンはPCBの仲間です。これらPCBの仲間は、催奇性(子孫に奇形を生じさせる)、発癌性など強い毒性を示すことが明らかで、日本では、1973年化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律が制定され(1975年発効)、法的にPCBの製造、輸入、使用が禁止されました。

とくに、油症患者の症状の中で、月経周期の乱れ、月経血の量と質の異常、月経の持続期間や間隔の乱れなどは、同じ女性として注目に値する事象でした。

 PCBに関する雌ラットを使用した毒性試験で、筆者らは、発情周期の乱れと投与6週後に子宮が委縮傾向にあることを認めました3)。

引用文献

1)Sajiki, J., Fukuda,Y. and Yamagiwa,J., Pathological observations of the mouse intoxicated with phthalic acid ester (DBP), J.Pharm.Dyn., 3,s-14 (1980)

2)佐二木 順子、カドミウム中毒ラットの精巣障害発症メカニズムに関する研究、       千葉大学薬学博士乙第698号乙第698号、1984-11-07

3)佐二木 順子、福田芳生 日 本食品衛生学会第26回 学術講. 演会講演要 旨集(1973),p.8.